ある男が妻とスーパーに行った時のこと。
野菜売り場で妻が言った。
「ソイヤ、ソイヤ」
突然のことに、男は少し戸惑いながら、
「お祭りですか?」
と妻に聞いた。すると妻は、
「え?お祭り?『白菜、安いな』って言ったんですけど」
と答えた。
『白菜、安いな』と『ソイヤ、ソイヤ』
文字にしてみると全然似ていない。間違えるというのは信じがたい。
お祭りが好きなわけでもない。フェスティバルとカーニバルの違いもよくわかっていない。
そんな人間の耳に突然響いたソイヤ。
それは何を意味するソイヤなのか。
天からの啓示ソイヤか。
それを受け取りし人間は、いかようにして生きるべきなのか。
天からの啓示ソイヤって何だ?
わからない。
何の話なのかわからない。
その日の夜、温かい鍋料理を食べてゆっくり休んだ。
きっと疲れていたんだ。
それ以来、ソイヤが聞こえたことはない。
ある女が夫とスーパーに行った時のこと。
野菜売り場の白菜がいつもより安かった。
たくさん買って、しばらく鍋料理を食べ続けようかな。お祭りだ。鍋祭りだ。
そんなことを考えていたら、
「ソイヤ、ソイヤ」
とつぶやいてしまった。
すると夫が言った。
「お祭りですか?」
まずい。聞かれた。ごまかさなくては。
「え?お祭り?『白菜、安いな』って言ったんですけど」
夫は少し困惑した顔をして、その後しばらく何かを考え込んでいるようだった。
その日の夜、温かい鍋料理を食べてゆっくり休んだ。
きっと疲れていたんだ。
明日も鍋。しばらく鍋。
ソイヤソイヤ。