放屁加速と相対速度
道を歩いていると、おばあさんが正面から歩いて来た。少し腰が曲がった様子で、ゆっくり歩いている。
私は横にずれてすれ違おうとしたのだが、すれ違う直前、「ブバッ、ブババッ」と音がした。
おそらく、屁である。
私の肛門は沈黙していたはず。そして近くにはおばあさんしかいない。つまり、屁の主はおばあさんである。
少し気まずい。しかし、私がリアクションしなければ、何もなかったことにできる。
そう考えた私は、そのまま歩き続けた。
次の瞬間、おばあさんの歩行速度が少し上がった気がした。
腰の曲がったおばあさんが急に早歩きするとは考えにくい。したがって、屁の推進力で加速したと考えるのが自然である。
私は、放屁加速したおばあさんに気づかないふりをして、そのまま歩き続けた。
その後しばらくしてから思った。
ズボンやパンツをはいていたら、放屁加速は成立しないのではないか?と。
ガスの噴射を布が邪魔するので、前向きの推進力を得るのが難しいのではないか。
つまり、おばあさんは加速していない。加速したのは私だ。
何事もなかったかのように歩いていたつもりが、早くその場を離れたいという思いが無意識のうちにあったのかもしれない。
私の速度が上がっただけなのに、それが無意識なため、おばあさんの速度が上がったように感じたのだ。相対的に。
「屁の推進力で加速する」という都市伝説の真相はこういうことなのかもしれない。