無骨な男は「握り飯」と言う
現代社会において、おにぎりのことを「握り飯」と言う人はほとんどいない。だがおそらく昔は普通に言っていたのだと思う。
江戸時代の農村。病に倒れた男が布団に横になっていた。そばで妻が看病している。
「俺はもう長くない。すまねぇな・・・」
「そんな弱気なこと言わないでおくれよ」
「最期に、おめぇのつくった握り飯が食いてぇな」
「最期なんて言わないでおくれよ。今つくるからさ」
「あと、香の物と味噌汁も欲しいな。できれば焼き魚も。牡丹とか紅葉もいいな。あと柏」
「食欲旺盛じゃないか!あんた本当は元気なんじゃないのかい!?」
こんなやりとりが普通にあったかもしれない。
白米の握り飯がごちそうだった。そんな時代があった。現代では簡単に手に入る。ありがてえ話ですな。