おじさんのひとりごと
ベンチに座っていたら、おじさんの声が聞こえてきた。そっと様子をうかがうと、少し離れたところにあるベンチにおじさんがひとりで座っていた。
「あぁ〜〜」というその声は、熱い風呂に入ったかのような声だった。しかしここは風呂ではない。足湯もない。
その後もため息をついたり、何やらぶつぶつ言ったりしている。大声というほどでもないが、気になる音量だ。
ひとりごとだと思うのだが、周りに聞こえるように言っているような音量でもある。誰かに気にかけてほしいのか。もしかしたら自分では声が出ていないつもりかもしれない。
客観的に見て、変わった人だと思う。あまり関わりたくない人である。だがしかし、「このおじさんは、こうなりたくてこうなったのだろうか?」ということを考えると、人ごととは思えなくなる。
誰しも「こんなはずじゃなかったのに」と思うことはあるだろう。思い通りにいかないことなんてたくさんある。
おそらくおじさんは、ぶつぶつ言いたくて言っているわけではない。言わざるを得ないような状況になってしまっているのだ。
人は誰でも、一歩間違えたら「変な人」になり得る。ほんの少しのことで、歯車は狂う。
明日は我が身。
いや、もうすでに変な人だと思われているかもしれない。自分はまともなつもりでも、周りから見てまともだとは限らない。
それでもまあ、どうにかして生きていくしかない。気を確かにもって。