暗闇のトイレから去った犯人は、今も見つかっていない。
夜のトイレにて
ある日の夜。
私は会社のトイレに入り、個室で用を足していた。すると、足音が聞こえてきた。
どうやら誰かがトイレに入ってきたらしく、手洗い場の方向から水の音がした。
水の音が止んだ直後、パチッという音がして、トイレは暗闇に包まれた。
一瞬、呼吸が止まったが、何が起こったのかはすぐにわかった。
手を洗い終わった人物が、トイレの電気を消していったのだ。
私は個室に入っている。
やられた。誰だ。怒りが込み上げてくる。
犯人が遠くに行く前に捕まえたいが、私はまだトイレでの用事が終わっていない。下半身を露出した状態である。
仮にこの状態で個室を出て、犯人を追いかけて捕まえたとする。
その状況を誰かに見られたら、ヤバイ奴のレッテルを貼られるのは私のほうである。
落ち着け。まずはトイレを済ませてからだ。
暗闇の中、呼吸を整える。
トイレで用を足すという行為は、今までに何千回もやってきた。暗闇だろうとできるはずだ。
スポーツ系の少年マンガでよくあるやつだ。
シュートを何千回も練習したから、目を閉じていても決められるというやつだ。
そう考えて心を落ち着かせ、用を足す。水を流し、個室から出る。
暗闇に目が慣れてきたが、壁にぶつからないように慎重にトイレの外に出た。
廊下には誰もいない。
時すでに遅し。逃げられた。
「クソ野郎が・・・」
思わず声が出た。
物理的に言えば、クソをしていたのは私である。
しかし、個室を使用している人がいるのにも関わらず電気を消したというのは、
1.個室に人がいるとわかっていて電気を消した。
2.個室に人がいるのに気付かなかった。
のどちらかである。
1の場合、いやがらせなので、そんなことをするのは人として問題がある。
2の場合、節電意識がある人物であり、電気を消したことを「善いことをした」と思ってその場を去っている可能性がある。実際にはそれによって困っている人がいるのに。非常にタチが悪い。
つまり、どちらのパターンだとしても、奴はクソ野郎なのである。
許しがたい。しかし誰なのかわからない。
これが完全犯罪というやつか。
日常には危険が潜んでいる・・・